[感想]「ボッコちゃん」/星新一:バラエティに富んだ超短編小説50編所収!ショートショートの神様が描く不思議な世界観をもつ物語の先には竹をスパッと切る日本刀くらいキレあるオチが!50年以上前に書かれたとは思えない今読んでも超面白いエンタメ作品

読書

この度、星新一さんの「ボッコちゃん」という作品を読みました。

帯に書かれているメイプル超合金のカズレーザーさんの書評を読んで気になって衝動買いしたため最初はあまり見ていませんでしたが、よくある1冊で完結する小説とはわけが違います。こちらは「ショートショート」と言われる短い小説が1冊に50編所収されています。短い作品だと4ページ程度、長い作品でも12ページです。

読んでみた結果、めちゃくちゃ面白かったです!星新一さん、天才としか言えないってなりました。天才って言葉はどういうところが良いのか考えることを放棄しているような言葉だと思うのであまり使いたくないのですが。天才です、星新一さん……

まるで短編映画を見ているような、かまいたちやバイキングの狂気的なコントを見ているような、4コマ漫画を見ているようなとにかく数ページのなかに劇的なドラマや狂気や皮肉や風刺も詰まっていたりしてどの作品も竹を斜めにスパッと切る日本刀くらいキレあるオチが待っています

そんな作品が50編も!星新一さんは「ショートショートの神様」と呼ばれており、生涯1001編(間違えていたら申し訳ありません)もの作品を生み出しているそうです。1つのアイディアから1つの物語を考え1冊の本にすることも大変だと思いますが、これだけ面白いアイディアを何個も何個も出し、それを短い小説のなかでキレよくまとめている、すごすぎると思います。

時間がなくて映画やドラマなどエンタメ作品に触れられない方、是非読んで欲しいです!ドラマみたいな物語を1つ5分程度で読むことができます、しかも内容がミステリー系やSF、ファンタジー系などバラエティに富んでいるので、色々な系統の小説をまんべんなく楽しめる、、、最高すぎませんか?個人的に面白いと感じた作品を一部引用させていただいたりしながら(一部ネタバレを含みます)このブログで紹介しています。その作品だけでも騙されたと思って読んでみて下さい。星新一ワールドにハマること間違いなしだと思います!

また、1つ1つの作品が短いため非常に読みやすいです。「1冊の本を読むのが難しい」、「本を読もうとするけどつい挫折してしまう……」、そんな読書ビギナー、読書が苦手な人にこそ読んで欲しい読書にハマるきっかけになるかもしれません。もちろん、読書好きでまだ読んでいない方にも。

もっと早くにこの作品、星新一という作家に出会いたかった……。

それでは本作の魅力を詳しく解説させていただきます。

~作品情報~

題名:「ボッコちゃん」

著者:星新一

出版:新潮社

ページ数:351ページ

目次

  1. バラエティに富んだ超短編小説50編所収!ショートショートの神様が描く不思議な世界観をもつ物語の先には竹をスパッと切る日本刀くらいキレあるオチが!50年以上前に書かれたとは思えない今読んでも超面白いエンタメ作品
    • 私が読んだ動機
    • こんな人にオススメ
    • 作品説明
    • 星新一さんの頭の中覗いてみたい!天才が描くぶっ飛んだ世界観とオチを体感すれば脳汁ブシャー間違いなし
    • 忍ばせた狂気という毒で完全にキマる……残酷さや恐怖の中にある魅力を堪能してほしい
    • 呪術廻戦の禪院甚爾ぜんいんとうじ陀艮だごん游雲ゆううんでめった刺しにするぐらいの鋭さで社会や人間に切り込む!皮肉や風刺に富んだ作品は考えさせられることが多いかも
    • 『最後の地球人』:まるで映画を見ているような壮大なスケール!12ページに詰め込まれたありそうな未来の世界、皮肉、苦しみ、感動、そして最高の読後感!
  2. まとめ

1.バラエティに富んだ超短編小説50編所収!ショートショートの神様が描く不思議な世界観をもつ物語の先には竹をスパッと切る日本刀くらいキレあるオチが!50年以上前に書かれたとは思えない今読んでも超面白いエンタメ作品

私が読んだ動機

  • メイプル超合金のカズレーザーさんが帯のコメントを書いているのですが、その内容が『これ読んで「面白くない」って人は、たぶんあんまり読書に向いていない人です。小説の面白さが全部詰まってる本なんで。』というもので、それを見て気になり読んでみたいと思ったから。

こんな人にオススメ

チェックポイント
  • 知的なユーモア溢れる小説を読みたいと思っている人
  • 1度にミステリーやSF、ファンタジーなど様々な内容の小説を楽しみたい人
  • 忙しくてエンタメ作品になかなか触れられない人、上質なエンタメ作品を楽しみたい人
  • ショートショートと言われる短い小説に興味がある人
  • 本を1冊読むのがツラい人、読書が苦手な人

作品説明

累計255万部、ショートショートの神様と言われる星新一さんの自選短編集。

ショートショートと言われる短い小説を今まで発行されている短編集の作品の中から選び50編にまとめている。

内容はSF的なもの、ファンタジー系、ミステリー系と様々、風刺を効かせたものもある。短い作品だと4ページ程度だがその中にきちんとドラマがあり、時には予想もしないオチが待っている。まるで「かまいたち」の狂気的なコントを見ているような、はたまた壮大な映画を見ているなそんなバラエティーに富んだ面白さの詰まった作品。

読書好きはもちろんのこと、読書ビギナーにこそ読んで欲しい一冊。

頭の中覗いてみたい!天才が描くぶっ飛んだ世界観とオチを体感すれば脳汁ブシャー間違いなし

まず、本作の魅力のひとつに思いもよらぬ設定やまさかのオチ、キレのある終わり方があると思います。実際に私が面白いと感じた作品を紹介させていただき、面白さをお伝えできればと思います。

最初に紹介するのは「殺し屋ですのよ」という作品です。この作品の内容を簡単に説明するとある日、会社経営者の男の前に殺し屋を名乗る若い女が現れます。そして、男の最大の商売敵であるG産業の社長を殺して差し上げましょうかと突然女は告げるのです。しかも証拠が残らない病死という方法で殺すのだと…。果たして女の殺しの手口とは?そして、女の正体は!?ラスト1Pで驚かされること間違いなしです。

紹介したい作品は書き切れないくらい沢山あるのですが、もう1つ紹介させていただきます。それが「キツツキ計画」です。キツツキはあの木をくちばしで突く鳥のキツツキです。題名からもうそそられませんか(笑)。こちらは悪人団の首領と子分たちの会話も好きなので、引用して紹介させていただきます。

都会からはなれた森のなかに、小さな家があった。しかし、それは別荘などではなく、悪人団の本部だった。

ある日。その首領は、ここに子分たちを呼び集めて言った。

「大きな計画を思いついたぞ。おまえたちにも、ひと働きしてもらわなければならない」

「銀行強盗でもやろうというのですか」

と子分たちは身を乗り出した。だが、首領は手を振った。

「いや、そんなけちなことではない。いままで、だれひとり考えもしなかったような、どえらい仕事だ。どうだ。やってみるか」

「やりますとも。命令を出して下さい」

「それでは、まず町に行って金網を買ってきてくれ」

それを聞いて子分たちは首をかしげた。

「なんに使うのですか」

「大きな鳥小屋を作るのだ」

「気はたしかなんですか。ちっとも、どえらい仕事とは思えませんが」

「そのなかで、たくさんのキツツキを育てるのだ」

「ますます、わからなくなりました」

とふしぎがる子分に、首領は言った。

「お前たちにもわからないとなると、だれにも気づかれることなく、この計画を進めることができそうだ。成功への自信がついてきたぞ」

「いったい、キツツキをどうするのです」

「押しボタンを見ると、クチバシで突っつくように訓練する。そして、町にむけて飛び立たせるのだ。どうなると思う」

「家の門などについている、ベルのボタンを押すでしょうね」

「そうだ。そればかりではない。火災用だの、防災用だのの非常ベルを、いたるところで押すわけだ」

説明されているうちに、子分たちにもしだいにわかってきた。

「警察は、さぞあわてるでしょう」

「そのほか、オートメーション工場に忍びこんでボタンを押しまくれば、変な品物がぞくぞく出てくる。電子計算機のある部屋に飛び込んでキーを押せば、めちゃくちゃな答えが出はじめる」

「町じゅう、大混乱になりますね」

「そこだよ。そこへわれわれが乗りこむ。どさくさまぎれに、欲しい品物を手当りしだいに持ってこれるというわけだ」

「なるほど、なるほど。わかりました。さすがに首領だけあって、すごい計画です。さっそくとりかかりましょう」

「キツツキ計画」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、331~333頁

悪人団が真剣にこんな馬鹿げた計画を考えているという状況がまず滑稽ですよね笑。結論計画は失敗するのですが、まさかのオチもバカバカしすぎて笑ってしまいましたし、がっかりする悪人団の顔を想像するとなお面白かったです。こちらは4ページの本当に短い作品ですが、設定から会話、オチまで面白さが詰まった作品です。ぜひ、ご自身の目で結末を確認してみて下さい。

他にも金庫強盗と男のやりとりを描いた「被害」ケイというおんなの前になんでも願いを叶えてくれる妖精が現れるがその妖精の願いの条件とは?「妖精」記憶喪失の行方不明の女の身元は?「なぞめいた女」なども設定やオチが独特で面白いと感じました。

1つのアイディアから1冊の本を作ることも大変だと思いますが、こんな面白い設定とオチが少なくとも50個、生涯で1001編も考えられていると思うとただただスゴいとしか言えません

天才という言葉はあまり使いたくありません。なぜなら、なぜスゴいのか理由を考えることを放棄したように感じる言葉だからです。ただ、こんな面白い小説を書ける星新一は紛れもない天才だ。そう思いました。

忍ばせた狂気という毒で完全にキマる……残酷さや恐怖の中にある魅力を堪能してほしい

本作の魅力の2つ目が超短編の小説の中に沢山の狂気が込められているという点です。毒ともいえる狂気が数滴入れられている作品は恐ろしさが詰まっている分魅力的で、トリップしそうになる独特な面白さがあります。

そんな狂気が詰まった作品のなかでまずは「ツキ計画」を紹介します。簡単なあらすじを紹介すると、人類が宇宙に進出していくために人間の能力を高める研究の一環をなす「ツキ計画」なるものの取材で「私」は研究所を訪れます。その研究所では色々な動物を人間に憑け、それによって人間の能力を高める研究が行われていました。例えば、宇宙船の不時着の時の衝撃に耐えるために女性をネコツキにしたり、高く飛ぶことができるウサギツキの子供が出てきたり、長い宇宙飛行でイライラし、喧嘩を防ぐためにナマケモノツキなるものが開発されたり……。そして恐ろしい最後が待っています。

ネコツキの女性は「ニャア……」と泣き、爪でひっかくなど本当のネコのようで、人間の見た目で中身は動物といった状況で設定や考えることが独特で面白いのですが、人間が宇宙に進出するためとは言え、人間に動物の能力を与えるだけでなく、本当にその動物のようにしてしまうこの研究は正直胸くそ悪いですし、狂気的としか言えないと思います。最後数行でさらなる恐ろしさが待ち構えています。

他、個人的に恐ろしさのなかに魅力を感じた作品が「欲望の城」です。簡単に内容を説明します。

通勤バスでよく一緒になる男は手頃な大きさの外とは完全に遮られ誰も入ってこられない部屋の中に本人だけがいる夢を毎晩見るそう。家具や電気器具、本棚など自分が欲しいものがその夢のなかですべて現れてきて、最初は私が顔を合わせるたびにそのことについて得意げに話していた。しかし、あるときから彼はぼんやりした表情をして元気がなかった。一体彼に何が起こったのか……。

夢の中の幸せな瞬間から一変、恐怖の世界に突き落とされる感じが個人的にぞくぞくして星さんが忍ばせた毒薬で完全にキマった感じでした。「ツキ計画」のように元々の設定に恐怖を感じるものも良いですが、幸せから落とす方がより恐ろしさを感じますよね。

他にも「ボッコちゃん」「生活維持省」「猫と鼠」も残酷さや恐怖に満ちた作品で魅力的でした。

どの作品も設定やオチに人間が隣あわせに生きている狂気のようなものがたくさん散りばめられており、きっと不思議な気持ちになるはずです。そしてそういった「死」や「暗さ」と似たものから学ぶことも多いのでは?ぜひ、狂気に満ちた星新一ワールドを堪能してみてください。

呪術廻戦の禪院甚爾が陀艮を游雲でめった刺しにするぐらいの鋭さで社会や人間に切り込む!皮肉や風刺に富んだ作品は考えさせられることが多いかも

本作の魅力の3つ目が時に人間への皮肉や風刺が込められている点です。しかもかなり鋭いです笑。著者が社会や人間の思想をナイフでグサグサと突き刺している感じです笑。

いくつか魅力的な作品があるのですが、その中から2つ引用して紹介させていただきます。(※こちらはネタバレを含みます)

1つ目が「親善キッス」です。この一冊の中で特に面白かった作品を5つあげると言われたときに名前を挙げたいくらい設定、オチ含め絶妙なくだらなさが個人的に好きな作品です。最後の三行を読むまで何が何だかわかりませんが、意味がわかると面白さと皮肉が同時に押し寄せてきます。紹介させていただきます。

「やれやれ、やっと着いた。まったく長い旅だったな」

地球からの親善使節団の一行の乗り組んだ宇宙船は、広大な空間の旅を終えて、銀色に煌めきながら、チル惑星の首都ちかくの空港に降りたった。

〔中略〕身づくろいをすばやく終えた要領のいい一人の団員は、双眼鏡を手にして窓から外を眺めていたが、それを目からはなして、団長に話しかけた。

「なるほど、町も人びとも、地球とほとんど同じですね。もっとも、男も女もショートスカートというところが珍しいが、これだってスコットランドにはそんな風習もある。しかし、団長、やはり文明は地球のほうが少しだけ進んでいるようですね」

「それはそうさ。だから、われわれのほうから出かけてきたのだ。このチル星では、まだ地球までこられる乗り物が作れない。まあ地球のほうが少しだけ、先進国といえるだろう」

「ところで、団長。いま思いついたことがあるのですが」

「なんだ、言ってみろ」

「いままで地球とチル星とでとりかわした通信のなかで、キスのことに触れてあったでしょうか」

「さあ、どうかな。そんなことまでは通信しあわなかったと思うが。それが、どうしたんだ」

「そこですよ。地球ではこのようなあいさつのやり方が行われているんだ、ということを、団長が適当な機会に示して下さい。そうすれば、たくさんの女の子と、われわれは自由にキスができるというわけです。これだけの旅をしてきたんだから、それぐらいはいいでしょう」

「まあ考えておく。しかし、これだけ似た文明だから、チル星にだって、あんがい地球以上にキスが行われているかも知れないぞ」

〔中略〕空港に作られた台の上に立ったチル星の元首が、拡声器で歓迎のことばをのべた。団長のそばの翻訳機は、それを訳して機内に流した。

「地球のかたがた、よくおいで下さった。今後はおたがいに、兄弟の星として交際を深めましょう。まあ、形式的なあいさつは、これぐらいにしましょう。まず、これをお受けとり下さい。それから、歓迎会場へのパレードにうつりましょう」

ふたたびわきあがる歓声のなかで、宇宙船から地上へおろされた階段を、美しい女性が上がってきた。

「チル星にも、すごい美人がいるじゃないか」

「おそらくミス・チル星といったところだろう」

階段をあがりきったその女性は、団長のそばに立ち、抱えてきたものを差し出した。それはダイヤをちりばめた大きなかぎだった。

〔中略〕「ありがとう」

興奮にふるえた団長は、ミス・チル星を抱きしめた。甘いかおりが鼻に迫り、彼は思わず自分のくちびるを相手のそれに近づけた。しかし、彼女はとまどったようにそれを拒み、群衆のブーブーという歓声は、一瞬ひき潮のように静まった。

先進国の誇りを持った団長は、いまさらやめるわけにいかなかった。〔中略〕彼は落ち着いたそぶりを崩さず、翻訳機を通じて、呼びかけた。

「これは、地球での親しみをあらわすあいさつです。わたしたちに、地球でのやり方で親愛の情を示させて下さい」

この言葉が群衆の上を流れるにつれ、歓声は前にもまして高まった。事情がわかったせいか、ミス・チル星ももう拒みはせず、その意外に小さな口を団長の顔によせた。

〔中略〕ほかの団員たちは押しよせる群衆によってもみくちゃにされ、さんざんにキスをされているのだ。男も老人もいたが、もちろん若い女性たちもいたので、困る場合ばかりでもなかったが……。

「みんなは、あなた方のもたらした地球式のあいさつを、面白がっているようです。このチル星でも、新しい流行となるでしょう」

元首はこう言いながら合図した。明るい行進曲が演奏され、一同は用意された自動車に乗せられた。

「では、歓迎会場にむかいましょう」

一大パレードが開始された。〔中略〕

「すごい歓迎だ。地球とまったく同じやり方じゃないか」

「おい、見ろ。あんなところまで似ているぜ」

一人の団員が目ざとく見つけて、仲間たちに知らせた。その指さす先、人ごみのむこうの建物のかげで、一人の男が吐いているのだ。

「星をあげてのこのお祭りさわぎだ。おおかた飲みすぎたんだろう。しかし、ますます親しみがもてるじゃないか」

「われわれも、まもなく思いきり飲めるぞ」

熱狂の渦巻くなかをパレードは進み、この星で最高と思われるホテルについた。一同は、そこのたんねんにみがかれた大理石づくりの広間に導かれた。香り高い花で飾られたテーブルの上には、すばらしい細工の杯に酒がつがれて、並べられてあった。みなはその杯を手にとった。

「では、二つの星の友好のために乾杯……」

感激は最高潮に達した。チル星人たちは、いっせいにその短いスカートを優雅な身ぶりでもちあげ、おしりのあたりからでているしっぱに似た口の先に、杯の酒を流しこんだ。

「親善キッス」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、154~161頁

口だと思っていたところは実は肛門で、人間で言うおしりの部分に口があったという衝撃的な展開!後から読み返すと「男も女もショートスカート」、「ブーブーという歓声」など伏線が張られていましたことに気がついたのですが、まさかこんな結末になるとは思いもよらないですよね。最後の三行でズバッと切れよく終わる著者の魅力も詰まった作品だと思います。

私はこの作品を読んで、「見た目で唇に見えるところが口とは限らない。当たり前を当たり前と思わないこと、正しいと思うことを疑うことの重要性」を書いているように感じました。また、習慣や思想が違っても共通の認識があれば(この作品ではキス。地球人とチル星の人達、キスに対する考え方は違いますが笑)心をひとつにすることはできる(表面上のこともあるけれど)のだとそんな風に感じました。皆さんはどう感じるでしょうか?

また、このように宇宙を題材にしたSF的な作品も多く収録されています。本書が発行されたのが昭和46年なので少なくとも53年以上前にこちらの作品は描かれたことになりますが、古さを微塵も感じさせない、むしろ新しさすら感じます。こういった作品が50年以上前に書かれたこと、それが今でも面白い作品としてこうして読まれていることがすごいなと感心するばかりでした。

他にも「プレゼント」では身勝手な優しさや自分の意見の押しつけ、「肩の上の秘書」では言いたいことが言えない人間関係や社会へのストレスのようなものに対しての皮肉、「程度の問題」ではそのタイトルの通り、適度が大切であることなど皮肉や風刺ととれるような内容が多数あり、自身の生活のなかで考えさせられるものも多かったです。

『最後の地球人』:まるで映画を見ているような壮大なスケール!12ページに詰め込まれたありそうな未来の世界、皮肉、苦しみ、感動、そして最高の読後感!

ここまで本作の魅力を解説してきましたが、最後に私が非常に惹かれた作品をひとつ紹介させていただきたいと思います。それが本書の最後50編目に収録されている『最後の地球人』という作品です。こちらが非常に面白かったです。

ページ数は12ページと他のショートショートの作品と比べると長いですが、それでもこの12ページの中にこれから私たちに訪れるかもしれない未来、皮肉、苦しみ、感動と多くの要素が詰まっていましたそして、最後の読後の終わり方も最高で、まるで壮大なスケールで描く映画を見ているようでした。これは本作を通してになりますが、こんなに面白くて引き込まれる作品を書く星新一さんはスゴいなとただただ感じるばかりです。

まず、すごいのが星新一さんの将来を見通す力です。この作品が書かれたのは1959年とのことですが、人口問題を中心に今実際に人類が直面している問題やこれから起きそうなことまで、克明に描かれています。実際に引用して紹介させていただきます。

世界の人口は、限りない増加をつづけた。

「いったい、どこまでふえるんだ」

「これ以上ふえたら、どうなるんだろう」

「なんとかしなくては」

〔中略〕だれもがこの現実を憂えていた。しかし、実行については「自分だけは別さ」といった調子で考えた。みなが同じ気分だったので、人口は決して減るけはいを示さなかった。

世界のいたるところが、都会となっていった。サハラやゴビの砂漠の緑化計画がやっと完了したころには、もうその森を切り倒し、そこに都会を建設しなければならなかった。

〔中略〕人口がふえると、その生活を保障するために、科学を進めなければならない。しかし、科学が進むと生活が高まり、さらに人口がふえた。このいたちごっこをくり返し、人間たちは全能力をあげて人口増加との悲壮な戦いをつづけていた。一刻も休むわけにいかず、また、勝利の見とおしのない戦いだった。

食料は人工的に合成されるようになり、植物はいらなくなった。炭酸ガスを酸素にもどすことも機械的に行われるので、植物のありがたみは少なくなる一方だった。べつに植物がきらいになったのではない。植物を生育させる場所が、なくなっていったのだ。

動物や昆虫も、とうの昔に一掃された。食料が惜しいからではない。そんなものを、生かしておく場所がないのだった。チョウも花も、人間の生存のためには、身を引いてもらわなければならなかった。地球は人類のものなのだから。

科学の進歩は、副産物として、寿命をも伸ばした。これがまた、人口増加に拍車をかけた。

〔中略〕とどまるところを知らなかった。世界はひとつの都会となった。〔中略〕どんな社会政策も宇宙移民も、この洪水を防ぎきれなかった。

「もうたくさんだ、助けてくれ……」

だれもかれも心の底でこう叫んだ。口に出して叫ぼうにも、だれにむかって叫んでみようもなかった。

全人類がはじめて、同じ反省と祈りを持つことのできた一瞬だった。

「最後の地球人」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、331~333頁

もう一度言います。この作品は1959年、つまり65年前に書かれた作品ということになります。著者の未来を予見する鋭さにただただ脱帽するばかりです。また、培養肉などの人工的に合成された肉は2024年現在話題になっていますが、人口増加による食糧問題や動植物の絶滅に関しては今後起こりそうですよね。これからの人類の未来について考えるきっかけになるのではないかと感じます時を経て読み直すとまた新たな気付きや戒めがある作品なのではないかと思いました。

「地球は人類のものなのだから」「全人類がはじめて、同じ反省と祈りを持つことのできた一瞬だった」という内容も人間のエゴや弱さのようなものを批判している感じがして、考えさせられるものがあるなと感じました。

そしてこの後一転、人口減少に話は進みます。

依然として、一組の夫婦から一人しか子どもが生まれなかった。原因については前より熱心に研究されたが、結論はどうしても得られなかった。

人類の滅亡。たしかに人類は滅亡への道を進んでいた。しかし、滅亡といっても、かつて人類がその発展期に自分勝手に想像し、自分勝手に恐怖したような、沈んだ暗い感じなど少しもなかった。青年のころに思い悩んだ死と、天寿をまっとうする前の老人の考える死との間には、ちがいがある。むしろ明るい楽しげな時代となった。

すべての生産は停止した。しかし、食料や電力は、滅亡までには十分ある。だれも働かなかった。働くことの意味がない。消費するだけの生活でも、道徳的にはまちがいではなかった。人類の未来には、限度がある。このことを悟ると、考え方は一変した。

長いあいだ、人類は無限の発展を信じていた。そして、意識するしないにかかわらず、未来の子孫たちのために、より良い社会を残そうとして、すべての人があらゆる時代に働きつづけて来たのだった。その合計したら数え切れない過去の人びとは、いまとなってみると、この滅亡期の人間たちの、どれいだったのだ。

いまはみなが貴族となった。過去の膨大な人類にかしずかれ、その血みどろの努力の成果を味わうだけの生活をすればよかった。貴族だから、なんでも気のむくまま、したいことができた。

真の貴族は、金銭など問題にしない。ダイヤを山と積み、火をつけ、そのまわりで古い酒を浴びるように飲んで夜をすごす者もあった。あまり面白いことではないが、世界中を旅行してまわる者もいた。昔から大切に保存されてきた遺跡をぶちこわし、住む者のなくなった地方を見つけると、核兵器を飛行機から投げつけるといった、高価な遊びをつづけた。

「最後の地球人」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、335、336頁

人の死への概念の変化や人類滅亡にあたる人間の行動の変化が描かれています。特に人類の発展を信じ働いてきた人びと=「滅亡期の人間たちの奴隷」というワードや人間たちの愚行はかなりセンセーショナルだと思いました。本作は人口増加にしても人口減少にしてもこれからを生きていく私たちが考えさせられることが沢山あるなと感じました。この作品に限らず古さを全く感じさせないいつ読んでも新鮮な気持ちで読むことが出来ると思います。

ここから唯一残る世界の王と王妃の2人の物語がはじまります。それまでは全世界規模の話でしたが、ここで2人の夫婦にクローズアップされる構成も良いなあと感じます。2人の王と王妃は地球最後の子どもを授かります。ここからの物語が劇的で壮大でドラマや映画のワンシーンを見ているような緊迫感もあり、非常に読み応えがありました。引用させていただき紹介させていただきます。

そして、彼女は子供を宿した。

「最後の子供ね」

「男の子だろうか、女の子だろうか」

「名前を考えておきましょうよ」

しかし、あれこれ迷っているうちに、二人は顔を見合わせて笑った。名前の必要はなかった。

出産の日が近づいた。彼女は部屋に入った。そこには、分娩ぶんべんにも使える自動式の万能医療装置の一台が、人類最後の一人の誕生のために残されていたのだ。

難産のため、出産は長びいた。男は落ち着かぬ気分で待った。機械にまかせて、見まもる以外にないのだった。

ランプが美しく点滅し、出産は完了した。赤ん坊はただちに、プラスチック製の保育器のなかへと自動的に運ばれていった。だが、妻のほうは、すっかり弱っていた。機械は危険を示す赤いランプを明滅させながら、万全の手当をいそがしくつづけた。しかし、彼女はますます衰弱してゆくばかりだった。

彼女は保育器の上で光る青いランプにより、子供は無事であることを知って言った。

「子供のことはお願いするわ」

彼のうなずくのを見て、安らかに息を引きとった。夫に先立つ妻の死にぎわとして、こんなに安らかなものはなかった。夫はだれとも再婚せず、妻の思い出だけを抱いて、子供を育てつづけてくれるだろう。

しかし、男にとっては、まったくの反対だった。文字通りのかけがえのない妻だったから。長いあいだ、彼は妻のなきがらにすがりついて泣きつづけた。そして、泣きつかれて眠った。

彼の眠っているあいだにも、医療装置は動きつづけた。それには、死後一定時間たつと、自動的に処理してしまう装置もついていた。彼はそれを止めておくのを忘れていたため、機械は妻の死体を完全に分解し終った。

彼が目をさました時、そこには小さなくいのような、一端のとがった骨が一本残されているだけだった。このとがったほうを、墓地ドームの床にさせば墓となる。かつてあまりに人口がふえすぎた時代、墓地に使う地面を節約するため、こんな方法が採用された。そんなころに作られた機械だったので、彼が目をさました時には、すべてが手おくれとなっていた。

彼はその骨をだきしめ、前より激しく泣きつづけた。妻のなきがらを防腐したまま、彼の死ぬ時まで残しておきたかった。しかし、もうどうにもならない。だれも味わったことのない、大きな別離の悲しみだった。

「最後の地球人」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、338~340頁

男が妻の骨を抱きしめ泣くシーンはかなりぐっとくるものがありました。科学の進歩に対する皮肉ともとれる表現もあり印象的でした。

さて、残された男と生まれた赤ん坊はどうなっていくのか?ここからまだ衝撃の展開があります!そして、最後は光というか、希望が見えるような最高の読後感が待っています!こちらの小説を読むだけでも本作を購入する価値があると言って良いくらい最高でした。

是非、本作を手に取ってあなたの目でこの物語の結末を見届けてください!

2.まとめ

〔前略〕この一冊は、私、星新一というあやしげな作家そのものを、ショートショートに仕上げた形だといえるかもしれない。

「あとがき」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、344頁

あとがきで著者の星新一さんはこのように語っています。まさしく本作は星新一さんの幅の広さ、狂気、社会を見る鋭い目、ユニークさなどを詰め込んだ作品だったなと読み終えて感じました。

皆さんにも星新一エキスを骨の髄までしゃぶって欲しい。そんな風に感じました。前述しましたが、SF系、ファンタジー系など作品の幅が広く、1つ1つの作品自体は短いものが多いため、読書初心者も入りやすいと思いますし、読書好きの方にも勿論読んで欲しい、お気に入りの物語を見つけてみては?と思います。

特に現代社会が抱える問題や人間に対しての皮肉や風刺ともとれる内容は考えさせられることが多かったです。最後に紹介したかったのですが、紹介しきれなかった響いた台詞を引用させていただきたいと思います。

「そのすぐれていることが、不幸なのだよ。世の中では、ひとと同じであることが幸福なんだ。これには、理屈もなにもない。すぐれた能力を持った者の、かすかな欠陥を指さして、笑いものにするか、迫害するということは、一種の自衛本能なんだろうな」

「闇の眼」(星新一『ボッコちゃん』所収)新潮社、197頁

こんなに鋭く本質と思われることに切り込める方いますか?この一節を書く方の風刺に富んだ小説、読んでみたくありませんか?どの物語も50年以上前に書かれたとは思えない新鮮さがあります。ぜひ、読んでみて下さい。

また、このブログを書いている最中、NHKで『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』と題して1回15分完結の形で再放送されていました。本作「ボッコちゃん」に収録されている作品も何本かドラマ化されていますし、それ以外の作品も本当に面白かったです。気になる方はそちらもぜひ見てみてください。

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