こんにちは、ラパンです。
この度は原田ひ香さんの「図書館のお夜食」を読みました。
皆さんは図書館と聞いてどんな場所を想像しますか?一般的には文庫本や絵本、新聞や時には漫画など様々な種類の本がカテゴリー別に置いてあり、無料で読んだり借りたりすることができる場所を思い浮かべるでしょう。
しかし、この小説の舞台となる図書館はひと味違います。まず、開館時間が夜の7時から夜中の12時までで、「夜の図書館」と呼ばれています。置いてある本はすでに亡くなった作家の蔵書で、そういった本を作家が亡くなった後寄付してもらい、整理、展示している、本の貸し出しはできず、お客さんはそれを観覧する本の博物館の様な場所です。このようにまず設定が面白いです。
そこで働くことになった樋口乙葉はそこで起こる様々な事件やトラブルを仲間達と解決していくという内容です。物語の後半では「夜の図書館」のオーナーの秘密やそこが生まれた経緯などが明かされていき、それまでに描かれた伏線が少しずつ回収されていく展開となっています。
最後はモヤモヤする終わり方な気もしましたが、素直に面白い小説だと思いました。
それでは感想を書いていきます。(一部ネタバレを含みます。ご了承ください。)
~作品情報~
題名:「図書館のお夜食」
著者:原田 ひ香
出版:株式会社ポプラ社
ページ数:319ページ
目次
- 「夜の図書館」で起こる様々な事件!図書館の謎とカゲのあるキャラが魅力的
- 私が読んだ動機
- こんな人にオススメ
- 作品説明
- 等身大の少しカゲのあるキャラクターが魅力的!「働くこと」について考えさせられる。
- 実在する本に出てくる料理は興味深いものばかりだが、期待していただけにグルメ要素は弱めな印象。
- 最後は釈然としない終わり方でモヤモヤ……続編があるかも?
- まとめ
1.「夜の図書館」で起こる様々な事件!図書館の謎とカゲのあるキャラが魅力的
私が読んだ動機
- 「読みたい本ランキング単行本部門・週間第1位」、「新聞や雑誌で多数紹介!大大大増刷!!」と帯で紹介されており、評判が良さそうだったから
- 食べることが好きでグルメがかかわる小説に興味があったから
こんな人にオススメ
作品説明
樋口乙葉は東北地方のターミナル駅ビルの中の書店で勤めていたが次第に身も心も疲弊してしまい、仕事を辞めようかと思っていた。そんな時に一通のダイレクトメッセージが届く。それは図書館で働きませんかという内容だった。
ただし、一般的な図書館とは異なり、開館時間は夜七時から夜中の十二時までで実在する本に登場する料理をまかないとして食べることができる、亡くなった作家の蔵書ばかりを取り扱っている「本の博物館」のような場所だった。
そこで働くことに決めた乙葉は様々なトラブルや事件を仲間と解決していく。そして、「夜の図書館」の謎が少しずつ明かされていくがー。
「三千円の使い方」の作者、原田ひ香さんが描く長編小説。
等身大の少しカゲのあるキャラクターが魅力的!「働くこと」について考えさせられる。
読み始めた時は夜に開館している入館料1000円(年間パスポートは5万円)、故人の作家の蔵書を展示しているが、貸し出しはしていない不思議な図書館という設定にワクワクしました。読書が好きな方、好きな作家さんがいる方は行ってみたいと思うのではないでしょうか。
それから様々なトラブルや事件が起き、それを解決するため奔走していくのですが、途中まではそれだけだと思っていました。
しかし、***を挟んで突然、「榎田みなみ」というキャラクターの目線から、暗い過去や本性が語られていきます。本書を引用して紹介します。
『あたしはそんなにいい人ではないし、しっかりした人間でもない。何より、明るい性格でもない。慌てて出て行く、篠井と乙葉と渡海の後ろ姿を見送りながら、みなみは思った。「アイアイ・サー」なんていったいどこから出てきたんだろう。なんだか、四人が出て行くのを「明るく」見送ったら、めちゃくちゃ疲れた……。
(図書館の公式問い合わせメールアドレスに来ている質問に答える場面)同郷の郷土史研究家らしい。大方、高校の社会の先生かなんかが、退職後、研究家だと名乗っているクチだろう。知らねぇよ。ウザいな。心の中で毒づく。ここは公立の図書館でもないし、自分はボランティアでもない。なんで、見知らぬ研究家風情に、メール一本で目録まで作って送らなきゃならないのか。〔中略〕イライラしながらメールを打って、送ってしまったら気持ちが晴れると思っていたのだが、それが「シュッ」というかすかな音とともに送信されると、書く前以上のイライラが襲ってきた。こういう時に、みなみは自分が、本やそれに関する仕事がそうすきではないのかな、と思う。
みなみは実は仕事上必要なものくらいしか読まないし、勉強もしない。ただ、必要なものが多いから、読書家に見えているだけだ。いつか、自分の化けの皮が剥がれるんじゃないか。みなみはいつも怯えている。』
原田ひ香『図書館のお夜食』株式会社ポプラ社、88,90,91、95頁
彼女は「いつも明るい末っ子キャラ」として描かれていますが、本当の「榎田みなみ」というキャラクターはそれとは異なり、正直ビックリしました。ただ、周りからの目や評価を気にしていい人の様に振る舞ってしまうというのはすごいわかる!と共感できるところがあるのではないでしょうか。感情移入しやすく、親近感がわくキャラクターだと思います。
原田ひ香さんの「喫茶おじさん」の主人公や登場人物もそうでしたが、こういった等身大のキャラクター、自分自身に重ねやすいキャラクターは原田さんの魅力の一つだと思います。
みんな本好きの親切で明るい同僚だと思いきや、他にも熱中して本が読めない人、本のせどりに興味があり、必要がない本を譲ってもらうために働いている人などの過去や本心なども描かれていきます。
皆が好きなこと、得意なことを仕事にできるわけではないということを改めて感じました。さらに、そんな中でもカゲのある登場人物達が本性や暗い過去を隠し(心にしまい)仕事に励む様子は「働くこと」について考えさせられるのではないかと思います。
実在する本に出てくる料理は興味深いものばかりだが、期待していただけにグルメ要素は弱めな印象。
この小説の舞台となる図書館の特徴の1つが、「実在する本に登場する料理をまかないとして食べることができる」ということです。全部で5話に分けられており、5つの料理が紹介されています。
「図書館のお夜食」とタイトルにもなっていますし、先に「喫茶おじさん」で美味しそうな喫茶店の料理や甘味の描写を知っていた自分自身は料理のシーンはかなり楽しみにしていました。
しかし、結果としては「喫茶おじさん」の時ほどそそられなかったというのが正直な感想です。実在する本で紹介されている料理という点は非常に興味深いですし、読書好きの方は「あぁ、あの料理ね」とか、「気になったからこの料理が出てくるこの小説も読んでみたい」と思うかもしれません。ただ、いかんせん渋い料理が多く、私はそれほど引きつけられませんでした。(まかないを食べるシーンが同僚とのふれあいのシーンであったり、一息つける空間など作中で大切な場所であるため、描きたかったというのがメインだと思いますが)
グルメ小説が好きな方はもちろんのこと、図書館で起こる事件の解決に奔走するというメインのストーリーは非常に面白いため、是非読んでみてください。
最後は釈然としない終わり方でモヤモヤ……続編があるかも?
物語の後半では「夜の図書館」のオーナーの秘密やそこが生まれた経緯などが明かされていきます。それまでに描かれた伏線が少しずつ回収されていく流れになっていき、謎も少しずつ明かされていくため面白いのですが、はっきりとしない点も多く、最後が少しモヤモヤする終わり方だなと感じました。詳しくは実際に読んで頂きたいのですが、図書館の今後や乙葉と篠井、二人の関係性などです。
最後の数文を読む感じは続編はなさそうと感じましたが、続編に期待しましょう!笑
2.まとめ
ありそうでない不思議な図書館での出来事を描いていて素直に面白い小説でした。楽しんで読むことができると思います。
この物語で「人は相手によって顔を変える」という一節が非常に印象的でした。
一見親切で本好きな同僚に見える人たちがそれぞれ暗い本性や過去を持ちながらも社会人として働く様子は好きなことを仕事として生きることの難しさやそれでも生きていくために時には無理をして働くことの大変さなどを語っている様で「働くこと」について考えさせられました。
トラブルに立ち向かっていく様子や夜の図書館の謎が解明されていくことを単純に楽しむもよし、カゲのある登場人物に自分を重ねて楽しむのもよし。1冊で様々な楽しみ方ができる小説だと思いました。
オススメな1冊です。ぜひ、読んでみてはいかがでしょうか。
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