こんにちは、ラパンです。
この度は齊藤彩さんの「母という呪縛 娘という牢獄」を読みました。
こちらは司法記者出身のライターである齊藤彩さんが獄中の女性、あかり(仮名)と交わした手紙や裁判の記録、実際のLINEのやりとりなどをもとに書いたノンフィクション作品になります。あかりの罪は実の母を殺害し、死体を切断、近所の河川敷に体幹部のみ放置したというものです。
一個人の親子間でのトラブルや事件にそこまで興味がない、そんな残虐な事件について書いた作品から目を背けたい、自分には関係ないしと思っている方々、自分自身が殺人犯になる可能性もあれば、被害者になる可能性もあるとしたらどうですか。私はこの本を読んで、人と関わって生きる以上、自分自身が作中のあかりにも母親にもなる可能性があると感じました。特にそこに愛情や優しさがあればなおさらです。
最初は帯に書いてある「大反響」という文字に惹かれて読むことを決めましたが、実際に読み始めるとその過激な内容に胸が非常に苦しくなりました。ただ、それと同時に親子関係のあり方について非常に考えさせられました。
本作は父、母、娘、息子、家族との関係に悩んでいる人に関わり方を考えるきっかけをくれる一冊だと思います。親子関係に悩んでいる方は勿論のこと、これから親になる人にも是非読んで頂きたい一冊になっています。
それでは感想を書いていきます。(一部本作の内容紹介がございますが、ご了承ください)
~作品情報~
題名:「母という呪縛 娘という牢獄」
著者:齊藤 彩
出版:株式会社講談社
ページ数:285ページ
目次
- 極限ノンフィクション作品!親子関係について学びのある一冊
- 私が読んだ動機
- こんな人にオススメ
- 作品説明
- 愛情があればあるほど、子を呪縛する可能性があることを自覚させてくれる意義深い一冊
- 日記や母娘のLINEのやりとり、裁判記録も引用されており、その時のリアルな状況や感情が伝わる
- 殺人容疑を認めるに至った理由に涙…親子の絆や寄り添ってくれる人の大切さついて考えさせられる
- まとめ
1.極限ノンフィクション作品!親子関係について学びのある一冊
私が読んだ動機
- 帯の「大反響」、「医学部9浪の娘」、「母を刺殺」、「ノンフィクション」というワードに興味を惹かれたから
- 自分自身に3歳の子供がいるため、親子関係などに何か学びがあるのではないかと思ったため
こんな人にオススメ
作品説明
2018年3月、滋賀県・守山市野洲川の河川敷で両手、両足、頭部を切断された体幹部だけの遺体が発見された。捜査により、遺体は近所に住む58歳の女性のものと判明する。
女性は20年以上前に夫と別居し、31歳の娘と二人暮らしで、進学校出身の娘は医学部合格を目指して9年間もの浪人生活を経験していた。
警察は6月、死体遺棄容疑で娘を逮捕する。いったい二人の間に何があったのかー。
司法記者出身のライターが、被告人と交わした膨大な量の往復書簡をもとにつづる、極限のノンフィクション。
愛情があればあるほど、子を呪縛する可能性があることを自覚させてくれる意義深い一冊
被害者となる母”妙子”は被告人である”あかり”が小さいときから教育に対して異常な厳しさで、医学部に合格させるため、9年もの間勉強を強要してきました。その後も助産師学校入学のため、また勉強を強いました。
一方あかりは、医学部受験も助産師学校に入学するための勉強も自分の本望ではなかったが、母の期待に応えようともがき、叱責や暴言、暴力にも耐え、9年もの間受験に縛られる。それから、精神的に追い込まれたあかりは母を殺害する決心をする。
そんな2人の状況を知って、「自分はそんな風に子供を束縛するはずがない」、「自分は子供とコミュニケーションが取れているからそんな風にはならない」、「子供は自分の意見を言えるから問題ない」と感じた方もいるかもしれません。
たしかに殺人事件にまで発展することはないかもしれません。しかし、「良かれ」と思ってお互いにやっている愛情や優しさ(こちらの本では母は子供に将来より良い社会生活を送ってほしいという思い、娘は母の期待に応えよういう思い)がぶつかり合うことで互いが無理をし、呪縛し合い、苦しめ合うといった不幸が生まれる可能性はどこの家庭にもあるのではないかと強く感じました。愛情や優しさが大きければ大きいほど起こる可能性がより高くなるのではないでしょうか。
例えば、お子様がいる親御さんは習い事で子供以上に熱が入ってしまう、テストで悪い点を取ったら異常に怒ってしまうということがありませんか。ただ、親の立場になると以外に盲点で自分がそういったことをしていても気づきにくいですよね。
そのため、子をもつ家庭にはそういった悲劇を引き起こす可能性が満ちているとまずは意識することが大切で、それを気づかせてくれる本書は非常に意義深い物だと私は思いました。
そして、この事例を知ることでそれを反面教師とし、どうしたらよかったのか、自分だったらどうするか考えることがより良い親子関係につながるのではないでしょうか。このように、自分を振り返り子どもとどう向き合っていくか考えるきっかけになるこの本は、親子関係に悩んでいる方はもちろんのこと、これから親になる方、すでに育児をしていて今後の子どもとの接し方について考えたい人は是非読むべきだと感じました。
日記や母娘のLINEのやりとり、裁判記録も引用されており、その時のリアルな状況や感情が伝わる
先述したとおり、本書はライターである著者が被告人と交わした手紙を元につづっていますが、それとともに日記や母娘のLINEのやりとり、裁判でのやりとりなども引用されているため、被告人のあかりがその時どんな感情だったか、どうして犯行に至ってしまったのか、母からどんな叱責を受けてきたかがよりリアルに伝わってきます。
基本的には目を背けたくなるような暴言や暴力、異常行動、被告人の悲痛な心の叫びが多く、途中読むのがつらくなることもありますが、その中で特に胸をえぐられたやりとりを紹介します。
(医学部受験に失敗し、9浪した娘、あかりは看護学科入学で受験から解放される。その後は母と旅行に行くなど関係も良好だった。しかしその後、母の「助産師になれ」という強要が激しさを増していく。そんな中、あかりは4回生の秋の助産師学校公開模試の結果でD判定を出してしまう)
『4回生の秋に助産師学校公開模試の結果が出た。判定はD。合格可能性はほとんどない。母は激怒した。
「こんな思いをさせられるんだったら、馬鹿みたいに旅行とか行かなかったらよかったわ!」
「え……?」
母が何を言っているのかわからなかった。
「どういうこと?」
母は捲し立てた。
「ハナから不幸のどん底に叩き落とされるってわかってたらあんな大金使って馬鹿みたいにあちこち出歩かなかったわ!本当、時間と金の無駄、ムダ!ああ、もうあんたがこんなクズだって知らずに、約束を守るって信じて一緒にヘラヘラした過去を消したいっ!」〔中略〕
「いや、旅行と模試の結果は……」
「黙れ」
「…………」
「ただの看護師にしかなれんクズと嬉しがって出歩いてた自分が恥ずかしいわ」
辛かった。やっと普通の母娘になって、楽しく笑い合えるようになれたと安らぎを覚えていたのは私の幻想に過ぎなかった。〔中略〕
辛かった。母にとって、助産師になるという約束を果たさない私は、娘ではないのだ。取り返しがつかない絶望に、打ちのめされた。
玄関に飾られたデジタルフォトフレームに、2人の笑顔の写真が浮かんでは、消える。
齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』講談社、205~207頁
どんな暴言や暴力よりも何か嫌なことで楽しかった記憶まで汚されることほど気持ちが苦しくなることはないのかなと思いました。ただ、親子関係に限らず、カップルや夫婦間でもこれに似たことを言われたり、言ってしまうことありませんか。過去の事を否定することは良くないことだと改めて感じ、学びになりました。
このように、こういった悪い事例を反面教師として自分は同じ失敗をしないようにと考えることができる学びが多い本だと思います。
子を育てていない人にも学びがある本だと思いました。
殺人容疑を認めるに至った理由に涙…親子の絆や寄り添ってくれる人の大切さついて考えさせられる
被告人であるあかりは死体損壊、死体遺棄は認めたものの、殺人容疑については否認と黙秘を貫いていました。しかし、最終的には殺人容疑についても認めることになります。あかりの心を溶かし、話すきっかけになったのは「空気のような存在」だと思っていた父と裁判長でした。
詳しい内容はこちらの本を読んで頂きたいのですが、娘が犯罪者になっても寄り添う父の姿は親子について考えさせられる物がありましたし、ぐっとこみ上げるものがありました。
「母」との関係性はうまくいかず、結果的に殺人事件にまで発展してしまいましたが、同じ家族でも「父」はあかりの心を救いましたし、今後もこういう人がいればあかりもやり直せるのではないかと思います。同じ子に対する愛情でも、傷つける可能性もあれば救う可能性もあるというところに学びと皮肉があると思いました。
自分自身も子どもが大変なときこそこの作品の父の様な存在になりたいと思いますし、親に限らず辛い時に助けてくれる人は大切にしていきたいと感じました。
2.まとめ
私自身、3歳の娘を育てる父親です。こちらの本を読んで色々と考えることがありました。
まず、親の立場から考えた事としては深い愛情は時に子どもに対して凶器になるということ、それを親は自覚し時には自制する必要があること、子どもの意思を尊重する事も大切だなということです。
本作にあるように子どもに将来良い生活を送ってもらいたい、より良い大学に行ってほしいと思う気持ちは親ならば誰でもあると思います。ただ、その愛情が自分よがりになったり、いきすぎてしまうと子ども、そして自分自身も苦しめることになると本作を読んで強く感じました。とはいっても、子どもの時は親のそういった思いや口うるさいのが嫌だなと思っていたのに、いざ親になると子どもが窮屈な思いをしているということがわからなくなってしまうことは多いのではないのでしょうか。そういった点で、本作はこの母のように誰でもなる可能性があると自覚させてくれる教訓的な位置にある本だと思います。
そして、今度は子どもの立場から考えたこと。それは自分のやりたいことや意思が親の意向と違う場合はしっかりと親と話し合う、それが難しければ自分の一度きりの人生、親と距離をとっても良いのではないかということです。
実は私自身も本作の被告人と同じような体験をしたことがあります。例えば、学校で宿題として出された読書感想文を書いてもビリビリに破かれ、「こんなんじゃダメでしょ!」と言われ、母が書いた感想文をそのまま原稿用紙に写すことになる、成績が下がった際には「こんな成績だったらお前と一緒に死んでやる!」と言われ、ナイフを突きつけられたり、問題に答えられなければ定規で背中や頭を叩かれたり、暴言などです。思い出すと辛いことも多いですし、今思えば「毒親」だなと思いますが、実際そのときは私自身幼かったということもあり、それに気づけなかったんですよね。ただ、こういう境遇にある人は少なくないと思うので、本作を読んで自分の親が毒親なのではないかと気づくことも本作の意義の一つではないかと思います。
また、被告人は母に自分の意見を伝えたり、家出を繰り返したり親と向き合ったり逃げだそうと努力していますが、叱責されたり、連れ戻されたりで思うようにいかずでした。しっかり話し合う、親から逃げる事が大切だと感じましたが、実際は他の家庭でもそれは難しい場合もあるかもしれません。前述したような境遇にあった私も母が怖くて自分の意見はあまり言えませんでした。子どもは皆が親とぶつかったり、逃げ出すことができるわけではないと思うのです。だからこそ、親は子どもの意見に耳を傾け、子どもの自由を尊重する事も大切なのではないかと強く感じました。
このように、こちらの「母という呪縛 娘という監獄」は親子関係について色々と考えるきっかけをくれる作品だと思います。子育てをされている方はもちろんのこと、これから親になる方、親との関係性に悩んでいる方に関係性がより良くなる、関係性が改善するヒントがあると思いますので、是非読んでみてください。
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