この度は室橋裕和さんの『カレー移民の謎~日本を制覇する「インネパ」~』という本を読みました。
皆さん、インド料理はお好きですか?私は大好きなのですが、そんな日本にあるインド料理屋の多くがネパール人コックの方が経営していることはご存じですか?
「えっ、インド料理屋だからインド人じゃないの?」なんて声が聞こえてきそうですが、ネパールは観光業、農業以外に国内の産業が育たず、国外に出稼ぎに来る人が多いそうです。そしてその出稼ぎ先として日本を選び、カレー屋を始める、。そんな背景もあり「ネパール人経営のインドカレー店」通称「インネパ」が日本で増殖しており、本作はそんな「インネパ」を取り巻くお話になっています。
本作の内容を自分なりに3つに分けてする紹介すると、①なぜここまで「インネパ」が日本で広がったのか、②ネパール人コック、その家族を取り巻くカレービジネスのダークサイド、苦労について、③実際にネパールのバグルンに旅して見たこと、聞いたこと、感じたこととなります。
どれも面白かったのですが、特に面白かったのは②のカレービジネスのダークサイドやネパール人の方々の苦労の部分です。ネパール人コック、妻、子供、学校の先生など多くの方への取材で聞いたリアルな声をもとにネパール人コックがおかれている厳しい現実、日本についてくる家族の苦労、ネパール、ひいては日本が抱える問題まで浮き彫りにしています。
「ネパール人のことでしょ?そんなに私たちに関係ないのでは?」と感じたそこのあなた。確かに私も最初は他人事のように感じていました。しかし、読み進めるとこの作品はネパール人の「稼ぐ」ことへの貪欲さや誠実さ、したたかさ、苦しい状況にいながらも諦めない執着心、そしてネパール人がおかれている現状(ネパール国内も日本でのことも)を通して、日本人も学んだり、考えたりすることが多い作品だと感じずにはいられませんでした。
経済の低迷が続き、物価は上がるが給料は増えない、そんな苦しい状況の中、「稼ぐ」という強いマインドが日本人は弱まっていないかと感じます。国のせいにしたり、文句を言うばかりで稼ぐために行動していますか。ネパール人の豊かになりたいという姿勢は時に間違えた方向に向かっていることもありますが、失敗含め私たちが学ぶことが多く、日本人が忘れてしまっているガッツのようなものを本作から感じることができると思います。私はもっと行動して収入を増やしてやろうと思えました。テレビで海外のなんてことないカフェのアルバイト代が日本のサラリーマンの給料より高いというニュースを目にしたことがあります。ネパールの人たちのように私たちが海外に出稼ぎに行く日も遠くないかもしれません。
また、ネパール人がおかれている厳しい現状はネパール人の計画性の無さや教育レベルの低さから来るところもあると思いましたが、そういうものを差し引いても彼らを受け入れる日本の懐の狭さというか制度が遅れていることも本作から垣間見えました。アメリカやシンガポールは移民を受け入れ成長してきた国として有名ですが、少子高齢化の進む日本ももっと移民に頼る日が来るのでは?と考えている自身にとって本作は日本が抱える移民に対しての考え方や対応についてもっとできることがあると考えるきっかけをくれました。
たくさん今後の日本について考えること、学ぶことがある一冊だと思います。それとともに、「インネパ」がここまで増えた理由を食の歴史(インド料理史や日本の食文化)や日本の政治改革などを通して読み解いていくパート(それがあってのダークサイドの話になるのだと思うのですが)も非常に読み応えがあり、特にインド料理や食べることが好きな方は楽しむことができると思います。(個人的にはインド人が厨房でネパール人を重宝した理由、在留資格をめぐるタンドールの噂が特に面白いなあと感じました。)
それではより詳しく本作の魅力について紹介させていただきます。
~作品情報~
題名:『カレー移民の謎~日本を制覇する「インネパ」~』
著者:室橋裕和
出版:集英社
ページ数:334ページ
目次
- バターチキンカレーやナンのように「甘い」世界じゃない!「インネパ」増殖の謎解明の先に見えたカレービジネスの闇やネパール人の苦労に迫るノンフィクション作品
- 私が読んだ動機
- こんな人にオススメ
- 作品説明
- 「インネパ」を取り巻く謎を歴史や国民性、時代背景から紐解きながら、インド料理店が抱える問題にも切り込むインド料理好き必見の一冊!
- まさに「ザ・ノンフィクション」!カレービジネスのダークサイド、ネパール人コックやその家族を取り巻く厳しい現実が浮き彫りに!おいしさの裏にあるスパイシーな現実とは!?
- 著者の取材魂がスゴい!!カレー移民の里、バグルンを旅することで見えたネパールの光と影
- まとめ
1.バターチキンカレーやナンのように「甘い」世界じゃない!「インネパ」増殖の謎解明の先に見えたカレービジネスの闇やネパール人の苦労に迫るノンフィクション作品
私が読んだ動機
- 日本のいたるところで見かけるカレー店がネパール人経営なのはなぜか、バターチキンカレーやナンといったメニューがコピペしたように並ぶのはなぜか、これらの店はどんな経緯で日本全国に広がっていったのかなど、そういった謎に迫っていることが書いてあり興味が惹かれたから
- インド料理などのアジアン料理が好きで料理やレストランが増えた背景や料理人の方たちの生活を知りたいと思ったから
こんな人にオススメ
作品説明
日本に「ネパール人経営のインドカレー店」(通称インネパ)が増えた理由は?、ネパール人はなぜインド料理を作っているのか?、どうしてこうまで同じようなスタイルのメニューがどこの店でも出てくるのか?などなど……そんな謎を有識者や元祖インネパのコックへのインタビュー、歴史から解明していく。
その謎を追うなかで、日本でインネパが広がっていった裏にあったネパール人コックやその家族が抱える厳しい現実やしたたかさ、出稼ぎ国家ネパールが抱える問題が見えてくる。
日本で働くネパール人コック、そのご家族や有識者への取材、著者が現地訪問することで見えてきた問題点に迫るノンフィクション作品。
「インネパ」を取り巻く謎を歴史や国民性、時代背景から紐解きながら、インド料理店が抱える問題にも切り込むインド料理好き必見の一冊!
序盤ではネパール人経営のインド料理屋(通称インネパ)がなぜ日本でここまで増えたのか、そもそもなぜインド料理だったのか、なぜインド料理屋では同じようなメニューばかりが並ぶのかなどネパール人を取り巻くインド料理の謎について言及しています。その謎をネパール国家の実情やネパール人の真相心理、ネパール人移民が増えた時代的背景、日本国内におけるインド料理史など様々な方向から考察している点が非常に面白かったです。
ネパール国内は農業と観光業以外の産業がほとんどないため、仕事がなく海外に仕事を探す「出稼ぎ国家」だそうですが、それだけが日本にネパール人が増えそれに伴いカレー屋が増えた理由ではないようです。複数の要素が絡んでいることがわかり非常に勉強になりました。ネパール人がそういった環境の影響をもろに受けていて、そこからネパール人のしたたかさや国民性も垣間見えてなお魅力的な作品だなと感じました。
インド料理やエスニック料理が好きな方、食べ歩きが好きな方は読んでいただくと知見が広がりより食を楽しむことができるかもしれません。
私が非常に考えさせられたネパール人経営のインド料理店に関する内容が「インド料理の低価格化」についてです。日本で食べるインド料理は安くてお腹いっぱい食べられるので私も大好きなのですが、もともとは高級で家庭では食べられない宮廷料理が出されていたそう。そんな中、ファストフード化しているその安さに迫った文章、考察に考えさせられることが多かったため、紹介させていただきます。
こうして「インネパ」が急増していく過程で起きていったのは、インド料理の低価格化だ。
〔中略〕この背景には日本のエスニックブームもあるという。1990年代はタイ料理を中心に東南アジアやインドの食文化が人気になった時代でもあった。だからインド料理店を出したり、あるいは自宅でエスニック料理に挑戦する日本人も増えたのだが、この過程でスパイスをはじめとした現地の食材を輸入する業者も多くなり、価格が下がった。エスニック食材が少しずつ日本に浸透し、普及する流れができ、料理を安く提供できるようになったことで、インド料理店の低価格化につながったと語るコックもいる。
そしてもうひとつ、悲しい話も聞いた。
「値引きするしかアイデアがないんですよ」
ネパール人とカレー屋を共同で営む、ある日本人の意見だ。開業ブームに乗ってきた「第2世代」の人々は、人数が多く未開発な地域の出身者が中心だったため、教育格差がある。
「しっかりした事業計画もなく店をはじめて、原価や売り上げの計算もせず、とにかく安くして数が出ればいいじゃん、みたいな。でもこのスタイルだと、お客さんは来るけど忙しいばかりで利益が出ないんですよ」
そこを家族経営でなんとか回して人件費を抑え、安い食材を使ってフードコストを下げて、ナン食べ放題の安価なランチを提供し続ける。それを、何十年も不景気が続き、ちっとも稼ぎの上がらない僕たち日本人が「安くて腹いっぱい食える」とありがたくいただく。「インネパ」が拡散していったのは日本の世相とマッチしたからでもあったが、その安いランチは途上国の抱える問題を背景に提供されてきたものといえるのかもしれない。
室橋裕『カレー移民の謎~日本を制覇する「インネパ~」』集英社、91~93頁
安さを売りにすることは私たちに利益を生むこともあるけれど、それにより本格的な高級路線のインド料理店が潰れたり、そういった店が日本から撤退している、当のネパール人コック本人たちも利益が出ない……そんな悲しいことありますか?。
飲食業は商売なのでお客さんに合わせる、それが安さという価格の面だったとしてもそれだけでいいのか、安さだけに特化して追及して良いのか?と考えさせられました。そして、その背景には気軽に外食に行けない日本の不況の状況が大きく関わっていることもあります。インドの本来の食文化を日本で感じることができなくなり、ネパールの良さもなかなか伝わらない。こういった事実を受け止め、安さだけを評価することが正しいのかしっかり考えたいと私は思いました。安さの理由を考えていきたいなと。
そして、これはどのレストランや飲食店でも言えることですが、しっかり料理に情熱をかけて頑張っている店を応援したい、料理の質の高さやこだわりに対してきちんとした対価を払っていくべきだとより強く感じました。そういった考えを持つ人が増えることが日本の食の質の高さや安全性を守っていくこと、未来の世代に日本が誇る食品や料理人、料理を残すことの一助になるのではないかと思います。そして、教育の重要性も強く感じました。
インネパを取り巻く謎に言及している点も面白いですが、それと同等に「インネパ」が直面している現状から日本人として考えさせられること、学びになることが多いと思います。日本人として生活する私たちが考えさせられる問題がたくさん示されています。今はネパール人のことであっても明日は我が身かもしれません。読んで今一度、食や経済、多様性のことなど考えてみませんか?
まさに「ザ・ノンフィクション」!カレービジネスのダークサイド、ネパール人コックやその家族を取り巻く厳しい現実が浮き彫りに!おいしさの裏にあるスパイシーな現実とは!?
本作の内容で一番衝撃を受けたのがカレービジネスの裏事情やネパール人コックやその家族がおかれている厳しい現状です。
カレービジネスの闇という点では「コックのブローカー化」があります。日本に来れば稼げると言ってビザ代や渡航費、手数料などの名目で1人100万、200万円といった代金を徴収する。本来、調理の分野で「技能」の在留資格を取得するには10年以上の実務経験が必要となりますが、人を呼べば呼ぶほど儲かるので調理経験のない人をコックに仕立て、日本の入管に提出する在職証明などの書類を偽造する、そしてコックとして日本に来た人達も同じようにブローカーとなり新たに日本に来るネパール人コックを食い物にする、スパイスのことも知らない、玉葱の皮もむけないコックであふれる、そして約束したよりも安い給料(月8、9万円程度しか払わないことも、人によっては月3万円という人も!)で働かされ耐え忍ぶ……などなど。
日本で働く日本人にとっては想像できないような闇の部分が実際に搾取されたネパール人コックのリアルな証言や取材をもとに浮き彫りにされています。カレー屋さんでおいしい、おいしいとただ食べるだけでなく、インド料理が好きな人こそインド料理屋の裏にはこういった闇がある可能性を理解することが重要なのでは?と思いました。(それが教育レベルの低さや安さの秘密につながっていると思うのですが)
そして本作の一番の魅力といっても過言ではないのは、ネパール人コックやその家族への取材を通して彼らを取り巻く厳しい現実をより浮き彫りにリアルに示している点だと思います。まさしく「ザ・ノンフィクション」です!
「もうネパール人には雇われたくない」
日本に出稼ぎに来てカレー屋として働き始めた際、搾取されたり、低賃金で働かされたり、苦しんだ経験を本作で語るネパール人コックの言葉です。この言葉は前述したカレービジネスの闇について苦しい現実、闇の深さを物語っているのではないでしょうか。しかも2人のネパール人コックが全く同じことを言っているんです(笑)!より問題の深刻さを感じますよね💦
コックだけではありません。その家族の抱える切実な問題(子供の教育問題や愛情を感じずに育つカレー屋の子供、コックの妻の負担の大きさなど)も取材をもとに丁寧に描かれています。
「親が必死に働いているのはすごく伝わってくるんです。でも、仕事ばかりで家族の会話もない。みんなで食事をしていても、一緒にいる感じがしない。僕自身は、人間は仕事だけじゃない、お金だけじゃないってなんとなく思ってはいるんです。だけど、がんばっている両親を見ていると、それをうまく伝えられない。つらかったです」
室橋裕『カレー移民の謎~日本を制覇する「インネパ~」』集英社、217頁
ネパール人コックの子供、シュレスタ・ラジーヴさん(28)の言葉です。日本語もわからず、寂しさを抱えて育つ子供の痛烈な心の叫びに非常に胸が痛くなりましたし、こういった言葉がより現実を強く映し出していると感じます。多くの証言や心の声を聞き出す室橋さんの取材力にただただ驚くばかりでした。
最も衝撃を受けた事例がアルコール依存症の父(コック)に翻弄される家族たちの話。少し長くなるため、紹介は控えますがなかなか衝撃でした。是非、読んでいただきたいと思います。
さらに、出稼ぎのため日本に来てうまくいかないなかでもしぶとく生き抜こうとする姿からホスト国である日本が目を背けてはならない問題が見えてきたり、そんなネパール人に手を差し伸べる人がいてその優しさにほっとしたり、ネパール人の貪欲さ、問題を抱えていても一生懸命生きている様子にガッツのようなものを感じたり……多くのことを学んだり、感じたりすることができます。
以前、テレビで日本人がオーストラリアでアルバイトをして日本のサラリーマンよりも高い給料をもらっているというニュースを見ました。そういった動きが日本国内でも出てきたことが本書の出稼ぎのため日本に来るネパール人と重なる部分があり、ネパール人だけのことだと思えないというか、人ごとでないなと感じる部分が強くありました。ネパール人の教育レベルの低さからくる失敗談や「稼ぎたい」という強い気持ちからくる「したたかさ」や「貪欲さ」から学ぶことが多いのではないかと感じます。
特に「稼ぎたい」、「成功したい」という執念にも近い思いから、辛くても踏ん張るネパール人コックの貪欲さや執念は給料が上がらない日本人に必要なものでは?と感じ、現代の日本人が読むべき一冊なのではと感じました。
室橋さんが取材で集めた人々の心の声から映し出されるネパール人を取り巻く闇や厳しい現実から学びを得てみてはいかがでしょうか。
著者の取材魂がスゴい!!カレー移民の里、バグルンを旅することで見えたネパールの光と影
さらに本作の特筆する点は日本で働くネパール人コックやその家族に話を聞くだけでとどまりまらないところです。著者自身がネパールに赴き現地の人に話を聞くところまであり、それが非常に魅力的だと思います。具体的には両親が出稼ぎで日本に行ってしまったことで取り残されている少女や田舎の集落に暮らす高齢者など現地の人に話を聞いたり、著者の目で見た光景から「出稼ぎ国家ネパール」が抱える問題を私たちにまじまじと提示している点です。国内で取材を終わらすだけでなく、ネパールに残る現地の人びとに話を聞くというのはありそうであまりないのではないでしょうか。
そんな魅力を感じた点を紹介したいと思います。
ハティヤに戻った僕は、近郊に広がる集落を歩いた。ちょうど稲刈りのシーズンで、一家総出で働いている姿があちこちで見られた。そんな農民たちとすれ違うたびに「埼玉のカレー屋にいたよ」「これから介護の仕事で日本に行くよ」なんて声がかかる。
彼らが帰っていくのは、ずいぶんと立派でモダンな石造りの家だ。3階建て、4階建ての豪邸もある。日本のカレー屋で稼いだお金でもって、ハリチョールのような山の上にある家を引き払い、ハティヤに近い便利なところに家を新築する人が多いようだ。いわば「カレー御殿」である。日本を経て、豊かさを手に入れた人たちも確かにたくさんいるのだ。
〔中略〕海外で出稼ぎをする人々はもはや人工の1割、総人口3000万人のうち200万人とも300万人ともいわれる。その人々からの送金額はおよそ1兆ネパールルビー(約1兆円)、この巨額によって果たして国が潤っているのだろうか。土地への投資はさかんなようで、カトマンズやポカラでは地価が急激に騰がっている。海外からの送金を元手に土地を買い、利回りで稼ぐ人が増えているという。銀行も「土地への投資なら」とお金を貸すのだそうだ。結果、都市部の地価が高騰していく。
〔中略〕しかし観光と農業以外の国内産業が育っているようにはあまり見えない。カトマンズとポカラを結ぶ主要幹線といえる道路も、僕がこの国を最初に訪れた20年前とほとんど変わらないガタガタのおんぼろだ。海外からの送金は、果たしてうまく循環しているのかという疑問も湧いてくる。
カトマンズに帰ってきた僕は、南部の古都パタンを少しだけ観光し、近くのショッピングモールに立ち寄った。開放感のある吹き抜けつくりで、ブラインドショップやシネマコンプレックスも入っている様子はなんだかバンコクかシンガポールのようだ。カフェに入ってアイスコーヒーを頼んでみると、1杯400ネパールルピー(約400円)だった。お腹いっぱいダルバートを食べて200ネパールルピー(約200円)だったバグルンを思い出す。お客もおしゃれな若い男女ばかりで、民族衣装姿の人々が農作業に精を出していたガルゴットとはまるで別世界だ。このモールでくつろいでいるような生活にゆとりのある層も厚くなる一方で、地方には取り残された庶民もたくさんいる。彼らは格差を埋めようと海外に出ていく。人材はどんどん国外に流出し、だから新しい産業が育つこともなく、海外送金によって不健全に土地の値段だけが騰がっていく……バグルンの旅をして見えたのは、ヒマラヤの小国が抱えるそんな現実だった。
室橋裕『カレー移民の謎~日本を制覇する「インネパ~」』集英社、302~305頁
①都市部の豪邸と主要幹線といえる道路のガタガタ具合、②首都カトマンズにあるショッピングモールのカフェのアイスコーヒーと田舎のバグルンのダルバートの対比がネパールの光と影を表しており、ネパールが抱える現実を浮き彫りにしていますよね。こういったネパールが抱える深刻な問題を現地に行き町の様子や人々の生活を見て、心境を伝えている点がやはり素晴らしいなと思いました。
2.まとめ
「ナンはファッションになりましたよね」
室橋裕『カレー移民の謎~日本を制覇する「インネパ~」』集英社、152頁
本作の中で好きな言葉の一つであり、「インネパ」を象徴する言葉の一つでは?と思います。ぜひ、本作を読んでこの言葉の真意を確かめてみてほしいです。
そして、本作を読んで漠然と自分の中に浮かんだ単語の一つが「水」でした。
日本に稼ぐ目的で来ているネパール人の方々は「水」のようだと感じました。日本というこの国に合わせて自分たちの形を変え、しぶとく生き残ろうとする姿はなにものにでもなれる水のようだと。
本作はインド料理店を経営するネパール人コックの方、そのご家族の方の苦労や闇の部分、ネパールが抱える問題を生の声とともに伝えているわけですが、そんな国外で稼ぐ難しさや苦しさの中でも「稼ぐ」という強い執念をもち、貪欲に、誠実に、時にしたたかに生きているネパール人の方々の生き方、失敗から今の日本人は学ぶことが多いのでは?と感じます。私を含め今の日本人に足りないものを書いてくれているような気がしました。そういった意味で本作は読む価値があると思います。
そして、今や安くて美味しい日本のファストフードと化したインド料理店も私たちにとっての「水」くらいとても身近で必要になっていますよね。もはや生活に密接し、依存といってもいいくらい皆が大好きなバターチキンカレーや大きいナンなどなど……。そういった恩恵を受けるだけで、日本に来たネパール人、ネパール人に限らず外国人の生活のことや待遇のことをホスト国として考えなくていいのか、、、?
そんな疑問や考えも本作を読んで感じたことの1つでした。少子高齢化が進み、経済の低迷が続く日本が生き残る道の一つが「海外からの移民」なのでは?と考えている私にとって日本が移民の方々に対しての対応で遅れていることや足りないことがよくわかりました。
入管法の改正もありましたが、本作は移民に対して考えるきっかけになると思いますし、その輪を広げることが日本の将来を豊かにすることにつながるのではないかと感じています。
ネパール人のことを書いている本ですが日本人にも通ずる、関係がある内容でバターチキンカレーくらい濃い内容になっていると思います。是非、読んでみて下さい。
コメント