[感想]「もしも世界からカラスが消えたら」/松原始:カラスを世界から消してみたら人間社会や生態系はどうなるの?鳥類学者が様々な視点からカラスのいない世界やカラスの代役を空想する一冊

読書

こんにちは、ラパンです。

この度は松原始まつばらはじめさんが書いた「もしも世界からカラスが消えたら」という本を読みました。

こちらの本は動物行動学が専門の鳥類学者である著者が題名の通り、世界からカラスが消えたらどうなるか、カラスの代わりになる生き物はいるのかを生態系、進化史、宗教、学問、エンタメなど様々な方向から検討していく内容となっています。

私はカラスやハトなど鳥類全般が苦手です。幼い頃にハンバーガーを落としたところにハトが群がってきたこと、カラスに糞を落とされたこと、通り道のすぐ近くで人間を恐れず我が物顔でこちらを見てくる感じが怖かったり…そんなことから特にカラス、ハトには恐怖すら感じています。

そんな嫌いな生物のひとりであるカラスがいなくなったら何か困ることがあるのか考えているこちらの本は、カラスなんていなければいいのにと考えていた私にとって非常に興味を惹かれました。

本書を読んで面白いと思ったポイントは大きく分けて2つあります。

1つはカラスがいないときの代役までカラス寄りの目線で考えている点です。ある生物がいない世界が生態系的に影響を及ぼすかそれほど問題ないか検討している本は多くあると思いますが、代役まで考えている本はあまりないのではないでしょうか。また、その代役案も理論や知識をもとに考えているため突拍子のないものではありませんが、「果実食可した猛禽」、「肉食可したハト」など興味深い物が多く面白かったです。

2つ目はカラスがいない世界を生態系の面からだけでなく、宗教、学問、エンタメなど多分野からも考察している点です。例えば「鬼滅の刃」の鎹鴉がいなかったら?というものだったり、学問からカラスが消えた時の生物学への影響などです。

カラスの生態系での役割や人間社会との以外にも強い結びつき、カラスのいない世界の景色(著者の想像の世界)などを知ることが出来ます。カラスの見方が変わりましたし、私はカラスがいてくれた方が良いと感じました。

皆さんもカラスの見方が変わるかもしれません。

それでは本書の魅力について解説していきます。

~作品情報~

題名:「もしも世界からカラスが消えたら」

著者:松原始

出版:株式会社エクスナレッジ

ページ数:277ページ

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目次

  1. カラスを世界から消してみたら人間社会や生態系はどうなるの?鳥類学者が様々な視点からカラスのいない世界やカラスの代役を空想する一冊
    • 私が読んだ動機
    • こんな人にオススメ
    • 作品説明
    • カラスの生態系への意外な関わりや鳥類学者が考えるカラスの代役が興味深い
    • カラスに限らず生物に関わる情報満載で生き物好きは楽しめること間違いなし!カラスのいない世界を考える上でも効果的に活用されている。
    • 宗教やカルチャー、名前からカラスが消えた場合の話には少しついていけず……
  2. まとめ

1.カラスを世界から消してみたら人間社会や生態系はどうなるの?鳥類学者が様々な視点からカラスのいない世界やカラスの代役を空想する一冊

私が読んだ動機

  • 私は鳥類全般が苦手で、特にカラスなんていなければいいのにと思ってしまうことがある。本書は実際にそれを考察している本で、カラスがいない世界がどんなものになるか気になったから
  • 目次を見たときに生態系だけでなく、宗教や学問などの面からもカラスのいない世界を検討している点が他にあまり見ることなく、興味深かったから
  • カラスの代役まで考えられている点を目次で知り、「肉食可したハト」というワードに興味が惹かれたから
  • プロローグを読んで引き込まれたから

こんな人にオススメ

チェックポイント
  • カラスが嫌いな人
  • カラスがいなくても(生態系だけでなく、エンタメや宗教の面でも)問題ないのか、世界はどうなるのか興味がある人
  • カラスがいない世界ではどんな生物が代わりを務めることになるのか気になる人
  • 生き物が好きな人

作品説明

本書は大きく分けて4つの章から構成されている

第一幕はカラスが担う役割や「生態系からカラスが消えたら(すでに成立している生態系からカラスというピースを抜いた場合)」どうなるかを解説している。

第二幕は生物史の中に最初からカラスがいない世界を、第三幕は人間の文化や社会にカラスがいなかったらどうなるかをそれぞれ何がカラスの代役になり得るかを含め考察している。

第四幕は「カラスの代役オーディション」と題して、さまざまな観点(スカベンジャーとして、「頭がいい」鳥としてなど)から代役が務まるかどうか考察している。

カラスがいないと人間社会や生態系はどうなるのか、鳥類学者が知識と理論から空想する一冊

カラスの生態系や人間社会への意外な関わりや鳥類学者が考えるカラスの代役が興味深い

〔前略〕ランニングついでにゲームだ。いくつかポイントを回り、ポケモンをゲットしよう。昨日も夜ちょっと走ったついでにゲットしたのだが。たしか、ヤミ――。

ヤミ?そんな黒いのいたっけ?いや、なんかいた気がする。進化するとドンになって強くなるのが。なんだったろう、ドンクロヒョウ、ドン黒犬、ドンタコス……は違うか。だが、その音域に妙に覚えがあるような気もする。

なんだかすっきりしない気分で走り出した。気分をアゲるためにイヤホンで音楽を聞く。曲はスマホに入っているなかからランダム再生だ。始まったのは星野源の「恋」。〔中略〕

「風たちは運ぶわ カケスと人々の群れ」

ん?

……という、いささか違和感と無理のある光景を想定してみた。この世界にはカラスがいないのだ。

松原始「もしも世界からカラスが消えたら」株式会社エクスナレッジ、2,3頁

本書を買おうか迷ったときに最初に読んだのが、カラスがいない世界を想像して書いたこちらのプロローグでした。その内容がユーモアに溢れており、非常に面白いと感じたので本文も読んでみようと思いました。

そして、実際に購入して読んでみるとカラスの意外な生態系や人間社会での役割を知ることができました。例えば、柿やビワなどの種が大きい植物の種子散布があります。カラスは死肉食性であると同時に果物も食べる鳥類です。果物を食べる鳥は他にもいますがその大半はくちばしが小さいため、大きい種は飲み込むことができません。そのため、カラスは大きい種子を作る植物の種子散布という点で一役買っており、カラスがいなくなった場合は柿やビワが今よりも育ちにくくなるかもしれません。

本書を読んで、カラスが生態系の構成者として様々な面で関わっていること、カラスがいないことで起こる弊害などを知ることができ、非常に知見が広がりましたカラスのそういった一面を知ることで、ゴミを荒らす厄介者くらいにしか見ていなかった私の印象はがらりと変わりました。皆さんもカラスを見る目が変わるかもしれません。

ある視点(私達が見る普段のカラスの行動)から見るとマイナス面ばかり見てしまいますが、別の視点(カラスの生態系での役割)から見ると有益なこともあるという点は物は見方だなという気付きも与えてくれました。

また、様々な視点から知識や理論を駆使してカラスの代役と、それらが代役になった時に世界はどうなるか、どれくらい無理をしなければいけないのかまで書かれている点も本書の魅力だと思いますし、その代役の考察が非常に面白かったです。

「肉食の鳥類の果実食化」や逆に「肉食化したハト」など一見すると突拍子のない考えのように思えますが、それが実現可能かまで含めて知識や根拠に基づいて意見が述べられているので、現実離れした妄想で終わらず、それが楽しく読むことができたポイントなのではないかと感じました。

この章の最初にカラスがいない世界を想定して書いたプロローグを紹介させていただきましたが、後半にもカラスだけがいない街が記されています。

カラスがいない世界はそれほど変わらないのか、それとも大きく世界が歪んでしまうのか、カラスの代役となった生物はカラスの代わりが務まるのか……。ぜひ、本書を読んで「もしも」の世界を楽しんでみて下さい。

カラスに限らず生物に関わる情報満載で生き物好きは楽しめること間違いなし!カラスのいない世界を考える上でも効果的に活用されている。

著者は鳥類学者であり、カラスや鳥類についての知識が豊富なことはいうまでもありませんが、他の生物の情報量もすごくて、生き物好きとしては興味深い情報ばかりで楽しむことができました。また、そういった他の生物の情報を例や根拠として活用し、カラスがいない世界がどうなるかを考えているため、非常にわかりやすく、説得力があるなと感じました。

私が特に面白いなと感じたカラスについての情報と他の生物についての情報を本書を引用して紹介させていただきます。

〔前略〕すべてのカラスが人間の近くでゴミ漁りをしているわけではない。実際、日本の山中にだってカラスはいる。屋久島の最高峰、宮之浦岳にもハシブトガラスはちゃんといた。周囲10キロ以内に人家はないところだ。そもそも、街中でカラスが我が物顔にゴミを漁っているのは、日本くらいである。大型のカラスに頭を蹴られるのも日本特有、あとはせいぜい、(聞いた話だが)ウラジオストクなどロシア沿海州くらいだ。世界的には、カラスはたとえ市街地にいるとしても、もう少し人間から離れて暮らしている鳥である。

そのへんは日本が特異的ともいえるのだが、その理由はよくわかっていない。おそらく、カラスの習性と日本人の態度と、そして人々が作ってきた国土の風景とが絡み合っているのだとは思う。

松原始「もしも世界からカラスが消えたら」株式会社エクスナレッジ、30,32頁

〔前略〕スズメ目といえば、彼らはソングバード、つまり「学習によって歌を覚えて鳴く鳥」である。〔中略〕

となると、カラスの代役に非常に美しいさえずりがついてくる場合も考える必要がある。〔中略〕ただ、カラスサイズにするとかなりやかましい恐れはある。

もっとも、鳥の声なんか都市騒音に比べたら大したことない、ともいえる。実際、東京都内のとある駅前でイソヒヨドリの声が聞こえたことがあるのだが、ホームに入ってきた電車の音で全く聞こえなくなってしまった。〔中略〕

実際、鳥は周囲の状況に合わせて、背景雑音の周波数帯を避けた鳴き方をしている、という研究もあるのだ。

コロナ禍で街が静かになっている間、都市部の鳥の鳴き方が変化したという研究もある。サンフランシスコに生息するミヤマシトドのさえずりを調べたところ、音圧が大きく下がり、一方で鳴き方が複雑になったという。小鳥の歌は、その複雑さがメスに対するアピールになることが知られている。しかし、騒音に負けないよう音圧を上げねばならず、さらに騒音に邪魔されない周波数帯しか使えない(あるいは、邪魔される周波数帯で歌っても全く届かない)のであれば、歌にかなりの制限がかかることが想像できる。「千本桜」でも「夜に駆ける」でもいいが、ああいう技巧的な曲をシャウトしろと言われたら困るのは、想像がつくだろう。叫ぶならシャウト向きの歌に切り替えるしかない。

これはとりもなおさず、小鳥の声が街の騒音に負けていることを意味する。

ということで、この線を考えると、「騒音にかき消されながらも美声を響かせるカラス」という素敵な世界線もあり得る、の、か?

松原始「もしも世界からカラスが消えたら」株式会社エクスナレッジ、76,77,78頁

〔前略〕認知の研究で脚光を浴びたカラスだが、どうやら一頃のブームは去ったようだ。カレドニアガラスについての実験を牽引してきたケンブリッジ大学のニコラ・クレイトンらは、最近、研究をイカやタコにシフトしている。〔中略〕

彼らの知的能力は極めて高く、迷路実験を行うとタコはちゃんと迷路を探索し、その構造を覚えてしまう(ただし、実験中に迷路の中で寝てしまう個体もいるそうである。岩の隙間に潜むタコにとって、迷路は快適なのだろう)。イカは鏡像認識ができるという研究がある。さらにタコは他者を見習った社会学習もできる。人間が瓶のネジ蓋を開けてみせると、自分も開けられるようになるのだ。神経系の活動を調べてみると、睡眠中に脳の活動性が変化しており、どうやら人間でいうレム睡眠、ノンレム睡眠に当たるものがありそうで、夢を見ているのではないかという推論すらある。

松原始「もしも世界からカラスが消えたら」株式会社エクスナレッジ、194,195,196頁

他にもクジラが海洋生態に及ぼしている役割や鳥の色彩の重要な役割(異性に対するアピールになる理由やそれだけではないこと)やペンギンの名前の変遷の歴史、ペンギンの名前の由来などなど沢山の生き物に関する情報が盛りだくさんで「へぇ~」と感心してしまう内容が盛りだくさんです。生き物好きの方には是非読んでいただきたいですし、雑学としての教養も身につくかもしれません。

宗教やカルチャー、名前からカラスが消えた場合の話には少しついていけず……

生態系からカラスが消えた場合だけでなく、宗教やアニメなどのエンタメ、学問などの人間社会でのカラスがいないときの影響なども想定している点が本書の魅力であり、新鮮で面白いなと思います。

しかし、個人的にはそれらの話(主に第三幕)はあまりハマらなかったというか、世代やそれらに対する知識の無さもあるかもしれませんがついていけなかったというのが正直な感想です。

宗教については自分自身、興味があまり持てず、理解度も低いこともあるからか内容が難しく感じ、読んでいて辛い部分も正直ありました。

また、文学やエンタメ作品からカラスが消えた想定ではカラスが登場する作品が並べられ、それぞれでのカラスの代役が考えられていきます。「ポケモン」、「鬼滅の刃」くらいはわかりましたが、自分自身が知らない作品が多く、紹介されている数も多いのでピンとこないものが多く、おいていかれた感は否めませんでした。名前からカラスが消えたらという想定もマニアックすぎる感があり、これらと同様の感想を持ちました。

このパート自体、生態系や生物の進化史からカラスが消えたときの考察よりも多少作者の主観が多いことも離れてしまった原因かもしれないと考えています。もしも、私と同じような人がいましたら、特に 文学やエンタメ作品については目次で自分が分かる物のみ読んだり、第三幕の最後の結論のまとめを見るでもいいかもしれません。

ただ、その作品が分かる人にとっては、どんな鳥がカラスの代役になり得るか考えるのは面白いかもしれませんし、鬼滅の刃の”鎹鴉かすがいがらす”の代わりがハゲワシやコンドルだったらと想像するのは不気味すぎて笑えました。(「どちらかというと鬼の仲間なんじゃないか…」という著者の感想も笑えました。)

2.まとめ

世の中にはカラスが嫌いと言う人がいて、それはもちろん自由なのだが、「あんなものはなんの役にも立たない!」と堂々と口にする人までいる。もちろん人間の役には立っていないだろうが、生態系の中での役割を忘れてはなるまい。

松原始「もしも世界からカラスが消えたら」株式会社エクスナレッジ、21頁

上記の文章を読んだときは「ドキッ!」としました。まさしく自分が思っていたことだからです。

しかし、今では違います。本書を読んで、知らなかったカラスの生態系での役割やわれわれ人間との関わり、カラスがいないもしもの世界を知り、カラスがいない世界よりもカラスがいる世界の方が良いと思ったからです。

どんな生物でも人間でも必要のない者などいないのだということ、苦手なカラスでも人でも折り合いをつけながら生活していくことが大切だということを本書を読んで痛感しました。

まだカラスのことは好きにはなれませんが、人間にとってのマイナス面にだけ目を向けないようにしようと思いました。

皆さんもぜひ読んでみてください。

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